予防と健康管理ブロック・レポート
1.はじめに
公衆衛生の最初の頃の授業でアスベストに関するビデオを二本、立て続けに見た。ビデオの内容は二本ともよく似ており、主に、次のようなものだった。
@ アスベストを吸い込んでから30〜40年後に中皮腫を発症すること。
A クボタという会社の工場で働いていた労働者および、工場の周辺住民にたくさんの中皮腫患者が出たこと。(工場を中心に同心円状に被害が広がった)
B 工場は見舞金として一人200万円を送ったが、工場から出たアスベストと中皮腫との関係を否認していること。
C 国は『管理使用』という形をとり(30年も続いた)、早急にアスベスト使用を禁止しなかったこと。(2004年に禁止した)
D 国、現労働省も間違えを否認している事。
ビデオによると、通常中皮腫患者は13万人に一人しかいないということである。しかし、アスベストを使用していた工場では直接手に触れた労働者を初めとし、その付近の近隣暴露がみられた。つまりアスベストによる中皮腫はごく一部の地域(アスベストがほこりにまぎれて飛んでくるところまで)で特異的に引き起こされる病気であるということ、また、病理学の総論でも『アスベストは職業病である』という講義を受けたという事もあり、僕は、キーワードとしてasbestos とoccupationを選択し、論文を読んでみた。
2.選んだキーワード
asbestos / occupation
3.選んだ論文の内容の概略
選んだ論文はイタリアの論文で、タイトルは『米-澱粉工場における悪性中皮腫の症例ケース』、書き手はRenata De Zotti1氏である。本論文は導入、症例ケース、議論と結論に分けて記述されていたので、それにならってそれぞれの概要を以下にまとめてみた。
導入
アスベスト暴露と悪性中皮腫の因果関係を支持する動かぬ科学的証拠がある。職業に起因している危険は人口全体で30から80%まで変化する。『国家職業健康安全委員会(オーストラリア連邦)』と(イタリアの『国家中皮腫登録』のような)『特定国家登録』によるMMの活発な追跡は、アスベスト暴露の様相を確認する事がより簡単になる。イタリアの『国家中皮腫登録』からのごく最近のデータでは、“未知の”アスベスト暴露のケースのより深い調査が、変わった職業的な暴露の状況を明るみに出している。ここでは我々は米-澱粉を造っている工場で、アスベストの職業的な暴露のケースを記述する。この職業的な設定では、通常はアスベスト病の危険があると思われない、しかし、本ケースは以前にアスベストを含んだジュート袋の再利用に由来している悪性中皮腫の危険性を指し示す。世界中の数人の研究者は非アスベスト繊維工業で、そして、これらの汚染された袋を取り扱ういろいろな分野の労働者の間で、袋製造の分野と再利用における、悪性中皮腫の危険性に対してすでに注意を引いた。さらに、アスベストに汚染された袋に対する非職業的な暴露の、若干のケースは記述された。危険の不当な広がりは以前にアスベストを含んだ袋を売ったりただであげたりさえしている、一部のアスベスト会社の方針に由来する。これは世界各地で起こり、そして、イタリアでも法律が可決されるまで袋は再利用された。
症例ケース
悪性中皮腫は、米-澱粉を造っている工場で雇用される女性労働者で診断された。両側の胸膜斑は高分解能CTによって示された。中皮腫の確かな診断は組織学的、免疫組織化学的特徴に基づいて、2002年になされた。組織化学がカルレチニン、ビメンチン陽性の結果を、CEA陰性の結果を示し、患者は胸膜の上皮性中皮腫にかかっていた。その病気は胸膜のドレナージのところで、リンパ節と皮膚に影響を及ぼした。労働者は2003年、78歳で死去。1943年から1982年まで、女性は米-澱粉工場の倉庫で働いた。工場は1986年に廃業したので、更なる情報が利用できなかった。彼女の職業歴の評価と、非職業的に起こりうる、あらゆるアスベスト暴露の評価は親戚と仕事仲間のインタビューに基づいている。彼女の仕事はジュート袋を再利用して米を輸送する事だった。袋は中国、ロシア、カナダを含むさまざまな国からきた。そして、彼らの中には袋の外側に“アスベスト”と書く人もいた。女性の仕事は空の袋を特別な機械に入れることだった。そして、ちりを取り除くために袋をぐらつかせて、米を残した。それから袋を洗って、壊れた箇所を修復した。アスベストへの職業外の暴露は確認されなかった。(以上の過程が、女性が暴露したと思われる全てだ)職業歴の分析は、以前鉱物が入っている再利用された袋を使う、彼女の仕事のためにアスベストへの職業的な暴露と一致していると思われる。さらに、悪性中皮腫の診断を支持する更なる要因は、彼女が仕事を始めてから、彼女が発病するまで(高分解能CTで胸膜斑を発見するまで)の長い時間間隔であった。
議論と結論
症例ケースが記述する事は、イタリアの中皮腫登録の一つである、フリウリーベネチアジュリア地方の中皮腫登録から得られた。そして『積極的な登録』がこの病気にだけはなされた。(このような症例ケースはなかなか明るみにならない)2006年に発表されるデータから、イタリアのおよそ67%の悪性中皮腫がアスベストへの職業的な暴露に起因するように見える。しかし、職業的な暴露が“知られていない”(原因不明のアスベスト暴露の)公正な一部のケースがある。“知られていない(原因不明の)”というのは所定のケースについて利用できるデータが限られているため、または特定の過去の労働過程についての不完全な知識のため、それがアスベストへのどんな暴露という事でも(職業的な暴露に起因するのか否か)証明するのが不可能だった事を意味する。アスベストへの“知られていない(原因不明の)”暴露による若干のケースのより深い研究は、変わった職業的な暴露を明るみにした。イタリアでは非アスベスト繊維工業において、また、農業分野においても、以前にアスベストが入っていた再利用ジュート袋の相当量の使用例がある。記述される症例ケースについて、まず最初に、労働過程ではアスベストへの職業的な暴露は少しもあるようには見えなかった。そして、中皮腫の症例ケースが診断されるずっと前に工場は閉鎖された。親類と仕事仲間が詳細なインタビューをしたことで初めて、いくつかの症例ケースでは、アスベストを含んだジュート袋との近い接触がアスベストへの職業的な暴露に違いない事が明らかとなった。実際、アスベスト暴露のない部署で、仕事仲間たちは袋の外側に書かれた“アスベスト”という語を読んだという明白な記憶は、真実とまだ鮮明な職業経験に基づくにちがいない。必ずしも、MMと少しだけ、あるいは全く職業に起因しないアスベスト暴露との間の認められた関係のため、アスベストで汚染された袋への暴露がどれくらいしばしば起こっていたか知らないにも関らず、我々はこの病気が職業的な起源であることを主張している。アスベスト暴露の重要な危険性は、アスベストが含まれるジュート袋の修復と再利用を扱う会社で証明された、袋を洗う人たちと修理する人たちにとっての暴露が主である。他に暴露される人たちは、さまざまな分野(例えば、再加工された繊維工業と収穫やグリーンハウス植物の輸送業など)でこれらの汚染された袋を取り扱う労働者の間で示された。再加工された繊維工業でアスベストの存在を確かめることを目的とする最初のイタリアの調査はプラトでは1980年代に実行された。アスベストへの暴露は仕事によるものであると考えられた。そしてそれは以前にアスベストが入っている大量の再利用の袋を取り扱う事が必要だった。アスベスト産業から再利用されっるジュート袋は貨物を包むのに用いられて、衣類やマットレスに詰めるために引き裂かれもした。暴露の危険性は特に“ボロをえり分ける人”の特定の仕事で高かった。1989年、リ氏他は、子供たちのためにおしめを造るために、アスベストに汚染された綿の布袋を再利用のために、家族性中皮腫の一群を記述した。もっと最近では(2003年)、アスコリ氏他が、同じ家庭内でMMの5つのケースを記述する事は、アスベストで汚染されたジュート袋を再利用している作業場(手工業的仕事を行なう工場)への家族の住居『次のドア』(二次災害)のためにアスベストへの暴露の非職業的な起源の役割を提案する。我々の症例ケースでは、アスベスト暴露が再利用されたアスベスト袋を取り扱う事からきたと仮定する事は、合理的なようである。アスベストが入っているジュート袋を取り扱うか、アスベストが入っている袋をきれいにすることが環境悪化を引き起こすので、アスベスト暴露の残りの危険性がこれらの再利用された袋を取り扱っている人々のために残ると予測する事は合理的である。クイン氏他によると(1987年)、労働者がボロと中古衣類の貨物を包むために再利用されたアスベスト袋を準備しなければならなかった時、「各々の貨物が圧縮されたので、アスベストの粉末の雲は起こった」そして、アスベストの相当な量はかなりの時間の後でさえ、袋の中に見つかった。それは、大部分が温石綿であった。しかし、アモサ石綿とクロシドライトも検出された。さらに、石綿症の重要な危険性は、会社内でのアスベストが入っているジュート袋の修復と再利用する取り扱いが示されもした(1990年、トマシニ氏他による)。このケースはアスベストに汚染された袋の再利用に由来している中皮腫の危険性の更なる証拠を提供して、アスベストへ限られた暴露でさえ病気を引き起こすかもしれない事から悪性中皮腫患者のもつ慎重な歴史の重要性を指す。アスベストのような非常に有害な物質に対処する時、健康影響の完全な評価はその用途全てをカバー(チェック)しなければならない。そのうえ、全ての活動が潜在的にアスベストを含有する材料に携わっている。そして、再利用されたアスベストに汚染された材料への暴露の影響が、長年経ったあとでも、まだ健康を脅かすかもしれないことを心に留めておく。
4.選んだ論文の概要とビデオの内容から自分自身で考えた事を、将来医師になる目で捉えた考察
論文とビデオの内容から、以下に問題点を挙げてみた。
@ 症例ケースがそうであったように、どこかで、なんらかの形でアスベストに暴露されていないかという事を患者か患者を良く知る人にしつこく問診するということが大切である。論文のケースのように親戚や仕事仲間の人達が、袋に『アスベスト』の記載がされている事を思い出すかもしれないので、原因不明の中皮腫患者が自分の働く病院にきたら、何かおかしい(ビデオによると、通常中皮腫患者は13万人に一人しかいないということなので)と疑い、患者の歴史を問診でチェックする事が原因解明の糸口となる。
→患者の歴史とは具体的に、この論文の症例ケースのように、アスベストに汚染された袋を再利用したことはないか、とか、ビデオにあったように、子供の頃家や学校の近くに工場はなかったかなどである。
A 原因が解明すればどこに責任を問えるのかがわかり、場合によっては訴訟を起こす事もできる。僕が医師になったら、この、原因の追究と解明までしっかりと行い、患者が起訴する時などに使うであろう診断書を、問診した内容を添えて出してあげる事だと思う。
B 論文のケースでは工場自体はアスベストを使用していないが、アスベストに汚染された袋を再利用させている事に問題がある。でも、その責任を工場に問えるのか?
@、A、については医師になったら必ず留意すべきことであり、アスベスト問題だけでなく、他のどの病気でも、不思議なこと、おかしなことを感じたらその原因を追究することが、自分が医師になった時、不可欠だと思うし、やっていきたい。
Bについては医師の仕事の幅を超えているが、疑問を持った事のひとつである。こういった問題は社会人として関心を持つべき事だと思うので、そういった社会性のある、いつも社会と折り合いをつけていける医師になりたいと、僕は思う。
5.まとめ
中皮腫の原因はアスベストである、ということは周知の事実である。しかし、発症が遅いので、患者はお年を召され、30〜40年前の記憶はあいまいであり、また、責任が追及される国や工場などの証拠資料も手に入れづらく、責任逃れもされやすいだろう。そこに『アスベスト』が社会問題になる所以があるのだ。
しかし、ビデオで見た中皮腫患者の痛々しさといったら、見るに見かねない。もし、クボタの社員が危険性を知った上でアスベストを使用させていたとするならば、本当にひどい事をしたんだと自分を悲観すべきだ。謝罪すべきだ。賠償金を払うべきだ、と僕は思う。
終わり